始めから読む
前ページ(3)で書いた通り、ジャン・スピラーらアメリカの西洋占星術師によるドラゴンヘッド&テイル解釈は、どうやら時間進行が逆だったようです。
何故、このような誤りが生じたのか?
謎を解くため基本に戻り、インド占星術のヘッド&テイル(ラーフ&ケートゥ)の解釈を読み直してみましょう。
西洋人にとっての罪と恩恵
ドラゴンヘッド&テイルにまつわる神話と、この感受点がどちらも「凶」として解釈されることは冒頭に書きました。同じ「凶」でもヘッドとテイルで意味合いは少し違い、それぞれ次のように解釈されます。
ドラゴンヘッド(ラーフ): 過去世カルマの報い
ドラゴンテイル(ケートゥ): 過去世カルマの借り
いかにも東洋的、シンボリックで意味が分かりづらい解釈です。
少しは仏教に馴染んでいる日本人ですら理解することが難しいですね。
近代の西洋人が初めてこの解釈に触れたとき、「???」と頭の中を大量のクエスチョンマークが駆け巡ったことは想像に難くありません。
それでおそらく翻訳者は西洋人に分かりやすくするため、
「報い」を「キリスト教的な福音(恵み)」
「借り」を「キリスト教的な罪業(贖いが必要)」
と翻訳して伝えたのでしょう。
おそらく、ここが誤りの出発点です。
西洋人にとって、「報い」は必ず未来でなければなりません。何故ならそれは、人間が過去の罪を贖(あがな)った結果として神様が下さるものだからです。
このため西洋人は「テイル=過去の罪」、「ヘッド=未来のご褒美」と解釈したのだと思います。
(意識して宗教に従ったというよりは、幼い頃からの刷り込み教育で無意識的にそう解釈したのだろうと思います。スピラーたち神秘主義者が宗教に縛られているのであれば、異教徒の思想として憎まれる「輪廻転生」など認めるはずがないので)
人間の一般的な心理としても、
「悪いことは過去」
「良いことは未来」
なのだと考えたほうが精神衛生に良いことは確かです。未来に良いことが待っていると考えれば心が前向きになるでしょう。西洋占星術におけるヘッド&テイルの時間進行の誤りは、そのような人間心理の影響もあるかもしれません。
東洋人は「報い」「借り」をどう解釈するか
いっぽう、東洋の仏教圏において「報い」は、良いニュアンスも悪いニュアンスも含むフラットな言葉です。そもそも「報い」は神様が下すものと考えられていません。
「因果応報」
「情けは人の為ならず」
という熟語や諺が表すように、行い(カルマ)の結果がただ返ってくるだけ。
良い行いをすれば良い結果が返ってくる、悪い行いをすれば悪い結果が返ってくる。
この通り自然法則、物理学的法則と同じような当然の現象として解釈されています。言わば罰もご褒美も、自分自身が下しているようなものです。
※情けは人の為ならず →正しい意味
「借り」も同様で、良いニュアンスも悪いニュアンスも含みます。
「借り」とは「行う義務があるが、まだ行っていないこと」。義務と聞くと反射的に嫌だと思い逃げたくなってしまうかもしれませんが、単に返すべきことを返すだけなので悪いことばかりではありません。
インド占星術における実占の解釈
参考として、インド占星術家が実占でラーフ&ケートゥをどのように解釈するかを見てみます。一般のインド占星術家は、ラーフ&ケートゥをただ前世を探るために使うわけではありません。(もちろん、輪廻転生に関わることが前提ではありますが)
実占では、ネイタルのラーフ&ケートゥを今世の事象として次のように読みます。
ラーフ(ヘッド): 欲望
現世的な欲望と成功のポイント。ラーフを活かせば現世で成功しやすい。ただし、ラーフの成功は永久的に追い求めてはならない。竜の口はどれだけ食べても内臓がないので満たされることはなく、欲望が止まらなくなり暴走する。ラーフに導かれ生きることは、輪廻転生から解脱できなくなる不幸を意味する。凶。ケートゥ(テイル): 禁欲
解脱のポイント。輪廻転生から脱するために禁欲的生活をすること等を表す。ケートゥを目指して生きれば欲を絶つことになるため、現世的成功に恵まれることはない。隠遁、病気を表すこともあり、一般的には凶。ただしケートゥは、高い精神性の実現や学問達成の道も示している。どちらかと言えば、ラーフ(ヘッド)のほうが凶性が強いと感じるのは私だけでしょうか?
「現世で成功すること」を単純に「幸運」と解釈するのは、いかにも西洋っぽいな……と思います。その単純さに呆れつつ、何も悩みがなさそうで少々羨ましくもなります。
ただ西洋人の誤解に従ってヘッド的な成功を求めることは、遠い将来に負債を残すことになるため私はお奨めしません。
もし転生の輪から卒業したいなら、今すぐ西洋占星術的な誤解を改める必要があります。
次ページでは過去世リーディングとしての実占法をご紹介します。
>>(5)へ続く
吉野圭 著 https://astrology.kslabo.work/